弦 弦設計、弦長の算出、強度、一本あたりの張力の算出、そういった設定はモデルごとに行われるが、これは芯線でも低音巻線でも同様である。人間の声と同じようにピアノフォルテも音域をもっている。つまり、低・中・高音部とそれらの音をつなぐ部分であり、ここに品質の違いがよく表れる。ベヒシュタインの低音・長駒の素晴らしいバランスと、響棒上の位 置、傑出したフィードバック比率は、響きの美しい、興味深い音域の移行を約束する。 アクション ベヒシュタインのアップライトピアノ、グランドピアノには、各モデルのために特別 にあつらえられたアクションが採用されている。ドイツ製のアクションは、高いクオリティと技術力を誇る職人によって世界的に知られている。 ハンマーヘッド ハンマーヘッドは、それぞれの共鳴体構造に合わせて当社の職人が加工するが、部品そのものは、世界的に有名なドイツの専門業者が特別 に生産してくれている。一つの製品としての質と、それが生み出す音の質とを調べるため、ハンマーヘッドの堅さとしなやかさは、手で行う下刺しの方法でテストされる。ハンマーヘッドの丸み、大きさ、形、強さ、木の芯は響きの幅に影響を与える。裁断、穿孔、シャンクへの接着、それに続く弦合わせといった専門的な準備の後で、ハンマーはそれぞれ、一つごとに、また他のハンマーと一緒に、「音を出す振り子」となる。幾度もの調音で、楽器の中にセットされたハンマーヘッドは繰り返し厳しくテストされる。というのは、調整の工程が完了して初めて実際の良さがわかり、また、時間が経つにつれポテンシャルが上がるためである。時間、経験、忍耐、そして能力が、調整者やピアノマイスターに必要な条件である。大量 生産品ではこんなふうにたっぷりと専門的、個別的に時間をかけることはできない。調整とは、情熱を前提とした芸術である。 経験という宝を守る きわめて高度な品質を追求するには専門家の力が不可欠であるが、それは、何年もの経験と訓練によってのみ、あるいはマイスターから次の世代への知識の受け継ぎによってのみ成り立つものである。豊かな知識は、革新的な技術や、繊細かつ卓越した一台一台への仕事と結びつき、すべてが一緒になって一級品ができる。ベヒシュタインは、人の手で、それもドイツピアノ製作の伝統を担う専門家の手で作られている。 |
何ものにも負けない安定した価値 世界各国からベルリンの特別工場へ、100年を経てなお演奏可能な楽器がやってくることもしばしばである。幾世代にもわたって奏者に喜びを与えてきた楽器たちである。楽器の構成要素は、使用度、時間、運搬、気候の変化に耐え抜くために非常に大きい負担を強いられる。損耗、磨耗で損なわれた箇所には、修理・修復のため徹底した専門的作業が加えられる。こうして、古い逸品をふたたび新しい光で照らし出すのである。ここでも、伝統に今日の進歩が結びつけられている。 ベヒシュタインらしさ ベヒシュタインのアップライト及びグランドピアノは、かなりの部分が有機的材料で、それも手作業で作られている。また、それぞれの部位 のちょっとした違いは、いずれも楽器一台一台の性格としてまとめられる。ベヒシュタインの専門家は、意識してそれぞれの特殊性と独自性を際だたせ、一台一台を、他のベヒシュタインとも微妙に違う、ただ一つの作品に仕上げている。ベヒシュタインは他メーカーと同じような音を鳴らすことはなく、差別 化された独自の音色をもち、聴けばそれとわかる色彩を帯びている。人間の声と同じように、他のどの楽器とも違うのである。並外れて美しい音が心を揺さぶり、深いところの感情を呼び起こす。ベヒシュタインの響きの文化が目標とするのは、音の構成を今日も未来も変わらず豊かにし、限られた音だけによるモノカルチャーを避けることである。 保証書・保証印付きの品質 仕上げの工程に入ると、楽器に製造番号が与えられる。それぞれの工程で職人の名前と日付がチェックされ、管理記録が記載される。ピアノができあがっていく過程にあわせて、きわめて高い品質に向けた着実な歩みが記されるのである。 最終検査後、どの楽器のフレームにも、いわゆる「楽器番号(製造番号)」がつけられ、ベヒシュタイン社の出荷記録に出荷日と最初の受取人とが記載される――1853年からずっと。 |